本の余白に

読書メモ

田島裕子「あざやかに生きて」

たった一回聴いただけの曲が、なぜか執拗に記憶にとどまり続けることがある。たとえば私の場合、田島裕子の「あざやかに生きて」がそれだ。じつはこの歌手名も、曲名も、知ったのはつい最近のことで、私のなかでは長いこと「しなやかに生きて」という誤った…

金原ひとみ「蛇にピアス」

「かたち三昧」に導かれて手にとった本。高山氏はフィグーラ・セルペンティナータつながりで、蛇と名のつくものはいちおうチェックしないと気がすまないらしい。同様の性癖は私にもあるので、氏の気持はよくわかる。が、しかし、よりにもよって金原ひとみの…

ホッケの本の余白に

サンタナの名曲に哀愁のヨーロッパというのがあるが、私の場合は郷愁のヨーロッパだ。ヨーロッパというものがもはやノスタルジーの対象でしかなくなっている。先日読んだ「かたち三昧」に導かれるようにして、本棚からホッケの「迷宮としての世界」を取り出…

かたち三昧(高山宏著)を読んで

高山宏の本はどれもおもしろい。そのことを認めたうえでいうのだが、氏の本を読んでいると、どうもこっちの頭がどんどんわるくなるような気がする。氏の好んで口にされる「おバカ~」にこっちがなってしまうのである。どうしてこうなのか。そもそも氏の本を…

「宦官」 三田村泰助著

中国という国の変態性、異常性がよくわかる本。「宦官の研究は、単なる猟奇的な好奇心をこえて、中国史の重要な課題の一つである」と著者はいうが、「単なる猟奇的な好奇心」の向こうに広がるのは、さらに奥深く複雑な猟奇の世界なのであった。日本は建国以…

「男が女になる病気」植島啓司

これはいわゆる「壁投げ本」だが、取るべきところがまったくないかというと、そうでもない。取るべきところ、それは両性具有のテーマと、ホモセクシャルと、身体改造に関する部分で、おそらく著者としてはこういったことが書きたくて、それでむりやりエナレ…

今日はボードレールの

悪口を書こう。私はこの詩人、この世界的詩人が好きなのか、嫌いなのか、これまでずっと自分でも分っていなかった。読み始めたころは、たぶん嫌いだったと思う。芥川の「人生は一行のボードレールにも若かない」というフレーズに導かれるようにして読んでみ…

稲垣足穂「少年愛の美学」

これはいいときにいいものを読んだ。というのは──男性も更年期を迎えるころにはあっちのほうがさっぱりご無沙汰になる。それはそれでいいのだが、これまでP(すなわち penis)を中心にして築き上げてきた自我が、Pの衰勢とともに崩壊の危機にさらされるので…

マラルメとボルヘス

マラルメの命題「世界は一冊の本となるべく存在している」は、100年前には気の利いたキャッチコピーだったかもしれないが、こんにちではどうだろうか。そのマラルメのあとをうけて、ボルヘスは「砂の本」を夢想する。時間的にも空間的にも無限のものを一冊に…

永遠の夏

永遠の、とくれば、夏、ですよね。永遠の冬なんていうのは考えにくい。ましてや永遠の春や秋などありえない。それらは来てはまた過ぎ去るものだ。これは夏をあらわすフランス語が「エテ」なので、それが「エテルネル(永遠の)」を連想させるのだろうか。い…

ギリシャ語入門

最近なにかと世間を騒がせているヒアリ。こやつは学名を Solenopsis invicta という。これだけみれば、わが愛する三葉虫の一種にみえなくもない。まあ三葉虫には学名しか存在しないので、似ているのは当然かもしれないが……さてこの学名というやつ、一般には…

昭和一桁台のエロ

「エロエロ草紙」とはまたすごい題名だね。 昭和五年というから、私の父の生まれた年にこんな本が出た、いや出かけたわけだ。 製本段階で発禁の憂き目にあったため、世には出回らなかったというが、じつは闇で売られていたんじゃないかな。まあそんなことは…

シャルル・ヴァン・レルベルグ

毎年この季節になると、ベルギーの詩人のシャルル・ヴァン・レルベルグを思い出す。 この人は私のちょうど100歳年上で、生まれた月もいっしょなら、日も3日しか違わない。 だからどうしたといわれるかもしれないが、こういうところにもなんとなく親近感をお…

牧逸馬「世界怪奇実話」より

千葉のベトナム人女児遺棄事件について mixiニュースを見ていたら、こういうつぶやきがあった。 mixi にログインが必要 たしかに!上記のつぶやきには青空文庫へのリンクが張ってあるから、興味のある人はくだんの「双面獣」(牧逸馬)を読んでみるといい。…

大岡信の死によせて

大岡信が亡くなった。 あまりよく知らない人だが、まったく知らないわけじゃない。 雑文と、単行本一冊くらいは読んだかな。 まあそんなものはどうでもよくて、詩人だから詩を読まないと話にならないだろう。 そう思ってうちにある「戦後名詩集」を開いてみ…

ある詩集について

1943年(昭和18年)に、25歳の青年が出した詩集「カンブリア紀」と、その後に書かれた詩やエッセイを合わせて一本としたもの。題名だけ見て「どんな詩集か?」と興味をもつ人がいるかもしれないので、ひとこと書いておけば、ここに集められた詩文はいわゆる…